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伊賀上野城本丸広場 幽玄の薪能
伊賀上野城本丸広場で9月14日、第41回「上野城薪能」が開催された。中秋の名月(17日)を前に、月明かりに浮かぶ上野城本丸を背に、かがり火に照らされた特設舞台で演じられた幽玄の美を、約250人の観客は2時間にわたって堪能した。能楽を大成した観阿弥が伊賀の生まれと言われることから生誕地をPRしようと、市などでつくる上野城薪能実施委員会が昭和58年から毎年、中秋の名月の頃に開いている。
能はいずれも観世流で、はじめは平家物語に題材した能楽「経正」。平経正は清盛の弟・経盛の息子で琵琶の名手。一の谷の合戦で討ち死にする。経正を弔うため、仁和寺の僧都・行慶が管絃講を催すとその夜更け経正の霊が現れ、夢うつつのように舞う。「心楽しい夜遊に心慰められていた」のにやがて敵に対する怒りの心が起こり「あい恨めしい」と苦しみの舞を見せ「あい恥ずかしい」と姿を見られまいと火を消して消えていく。吉井元晴さんの経正の舞が観衆を惹きつけた。 続いて大蔵流狂言「寝音曲」。小唄を歌っていた召使い(太郎冠者)の歌を聞いた主人が、自分の前で歌ってみよと命じるが、いつも歌わせられるようになるのはかなわないと「酒を飲まないと歌えない」「女の膝枕でないと歌えない」と言い逃れをする。太郎冠者の茂山七五三(しめ)さんと、主人の茂山宗彦(もとひこ)さんのユーモラスな掛け合いが、観客を楽しませた。
最後は、源氏物語を題材にした能楽「葵上」。光源氏の正妻・葵上が物の怪に苦しめられ、病に臥せっている(葵上は登場せず、衣装のみが舞台の上に広げられている)。さまざまな加持祈祷を行ったが効き目がなく、物の怪の正体を明らかにしようとする巫女が、呪文と呪歌を唱えると六条御息所と名乗る霊が現れ、華やかな昔と源氏の愛を失った今の境涯を比べて嘆く。やがて葵上への恨みを高ぶらせ、臥せっている葵上を打ち据える。激しく嫉妬した霊は、葵上を連れ去ろうとして姿を消す。葵上の様態が急変し、従者は比叡山横川の小聖(修験者)を呼びに行く。小聖が祈祷を始めると、恐ろしい般若面になった御息所が現れ、小聖と長く激しく争う。大鼓、小鼓が激しく響く。祈り続ける小聖の前に、やがて御息所の霊は心を和らげた。六条御息所の生霊となった味方玄(みかたしずか)さんが、場内の観客すべてが固唾をのんで見守る中、迫真の演舞で会場全体を魅了した。
滋賀県長浜市から来た女性は「毎年楽しみに来ています。華やかで、どの演目も素晴らしかった。一応源氏物語を読んでいたので、様子がよくわかりました。お城の背景が素晴らしく、こんな舞台、他にはありません」と感激していた。