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伊賀市高尾の甌穴まつり 千方将軍偲び盛大に

伊賀市高尾で7月21日、地元で人気のある豪族・藤原千方を供養する「第14回高尾逆柳の甌穴まつり」が行われた。甌穴とは川底のくぼみに入った石が流れと共に回転し、岩盤を削って作る自然の造形で、当甌穴は直径約1・5㍍、深さ約4㍍にも及ぶ。この大きさになるには4~5000年かかると言われている。この日は祭りのために川を堰き止め、土砂をさらい穴全体が夏の日差しの下に姿を表している。甌穴の大きさでは、現在では日本で最大級であると言う。
出発地点の高尾床並集議所前に集まったのは、一般参加106人、関係者やメディア合せて約140人。夏休みに入ったばかりの親子連れも多い。
藤原千方は平安貴族で伊賀・奥伊勢に赴任し、不思議な術を使う4人の荒法師(四鬼)と共に村人のために尽くし、朝廷の言う事を聞かなかった。やがて朝廷軍と戦うことになり、打ち取った敵の首を甌穴に投げ込んだと言われ、以来この甌穴は「血首ヶ井戸(ちこべがいど)」とも呼ばれている。千方将軍と呼ばれ権力に屈しないところが伊賀忍者に通じるところもあり「日本遺産:忍びの里 伊賀・甲賀~リアル忍者を求めて~」を構成する文化遺産にも認定されている。
その史蹟を保存する「千方伝承会」の西村隆三会長(75)は「3年前までは、大雨とコロナで連続4年中断したが、一昨年から復活することが出来た。今年は水量が多く土砂も穴底から3㍍ほど埋まっていて、少しくらい土砂が残っていても止むを得ないと思っていたが、皆さん高齢化にもめげず、朝7時から夜7時まで頑張って底まできれいにしてくれた」と始まりの挨拶で仲間を労った。
渓流沿いの気持ちの良い小道を歩いていると、伝承会の方が「赤目四十八滝は柱状節理で出来ているが、同じように火砕流の堆積なのに、この渓谷は板状節理が主」と話してくれた。確かに板状の岩が積み重なった断面が見えている。赤目とは異なる魅力のある渓谷だ。30分程歩いて千方と四鬼が酒を酌み交わした斗杯ヶ淵に出た。縁起が良いとのことで、千方と四鬼(4人の若者)と共に記念撮影をする人が多い。残念ながら地元に若者がいないので、近大高専の学生が役割を演じていた。やがて甌穴に到着、穴の上部にはパイプがしっかり組まれ、穴の底まで梯子が下ろしてある。万松寺の住職による安全祈願が行われ、参加者が一人ひとり穴に下り、日頃では体験できない感覚を楽しんでいた。渓谷の上流では、ちょいまること中西崇雄さんが葦笛を演奏。君が代から始まりコンドルが飛んでいくなど親しみやすい曲ばかり約15分間、美しい音色が渓谷に響いた。
甌穴から出て来たばかりの初老の女性・穐月哲さん(桐ヶ丘・75)は「別次元にいる感じがした。丸い壁が不思議で、空を見上げても異空間を感じた」と話し、岸幸生さん(忍町・66)は「削られた壁が、自然と言うより人工的な感じがしたのが意外」と語り、親戚の岸立馬さん(西明寺・81)は「神秘的な気持ちになった。これが甌穴か!と思った」と述べた。一人ひとり感じ方が微妙に違うのが面白い。田辺美代子さん(ゆめが丘・50)は「村上春樹のファンです。穴の底に下りた時、こんなところで異次元へ行くのか、と彼のインスピレーションの一端に触れた気がした」と話した。井戸の底から別世界へ行く「ねじまき鳥クロニクル」を感じたらしい。
その間渓流では、子どもたちはマスのつかみ取りに興じ、焼きたてのマスの塩焼きが参加者にふるまわれた。昼ごろには堰き止めが外れ、甌穴に渓流がながれ込んだ。対岸から厄除けの石の投げ込みが行われ、やがて神秘の甌穴は完全に流れの中に沈んでいった。