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俳諧文化を次世代に 伊賀市で第77回芭蕉祭

俳聖・松尾芭蕉(1644~94)の命日にあたる10月12日、伊賀市の上野公園俳聖殿前(上野丸之内)で、第77回芭蕉祭が行われた。約220人の列席があった。
式典に先立ち岡本栄伊賀市長と(公財)芭蕉翁顕彰会(岡島久司会長)の人々は、上野農人町の愛染院・故郷塚の墓前で法要の式典を行った。芭蕉は大阪で亡くなり、墓は大津市膳所の義仲寺にあるが、訃報を聞いて駆け付けた伊賀の門人、貝増卓袋、服部土芳が遺髪を持ち帰り、墓を建て故郷塚と名付けたのが由来。故郷塚法要の後、上野市駅前の芭蕉翁銅像、旧上野市庁舎前の芭蕉翁文学碑「自然」に献花・献菓し、式典に臨んだ。
式典は、4人の和服姿の女性による献茶、献菓、献花から始まった。岡本市長が「来年は生誕380年の記念すべき年。我々は、芭蕉翁の俳諧への思いはもちろんのこと、それを現代にまで伝えた多くの先人の思いも受け止め、芭蕉翁が残した俳諧文化を次世代に伝えていくことを誓い、芭蕉翁敬慕のことばとする」と祭詞を述べた。 優れた俳文学関係著書に贈られる文部科学大臣賞には「蝶夢全集 続」が選ばれ、授賞式には編著者5人のうち、田中道雄・佐賀大名誉教授(91)ら4人が出席した。田中教授は「芭蕉にとって蝶夢はとても大切な人。蝶夢がいたからこそ芭蕉は、世界的に有名な人になった。当時、蝶夢は有名人だったが、今はそうではない。蝶夢は有名になることを恐れて、自分の名を消そうとした。この賞で蝶夢の名が広がることを私は喜んでいる。今後も成果が出るように研鑽を積ませて頂く」と挨拶した。
部科学大臣賞・選者献詠句・特選句の懸額が、岡本市長、岡島会長により除幕の後、特選者表彰式に移った。芭蕉翁献詠句の特選句に選ばれたのは、一般の部28、テーマの部2、英語俳句2、児童生徒の部33の計65句。全ての句が読み上げられ、部門ごとに俳聖殿前に並んで、代表者が表彰を受けた。代表して、国分寺市の湯口昌彦さんが「日本では数百万人の人が俳句を楽しんでいると思うが、全てこの伊賀の地に芭蕉が生まれ、育まれた言葉によって、今日の俳句の世界があると思う。今日この地に来させて頂いたことはこの上ない幸せ」と話した。
俳句教育に熱心な学校に、伊賀市立柘植小学校(松本徹校長)と伊賀市立上野南中学校(五百雀豊校長)が選ばれ、三重県知事賞が贈られた。献詠連句の披露・奉納及び特選者表彰、芭蕉祭ポスター最優秀賞の表彰と、絵手紙最優秀賞の表彰があった。ポスター最優秀賞受賞の竹中栞那(かんな)さん(伊賀市立青山小4)は「俳句をつくりながら旅をするってすごいなと思って描きました」と受賞の言葉を述べた。
閉会の挨拶で岡本市長は「文学や芸術はもちろん、今日的な精神は俳句の中にある。平和と環境というものをしっかりと念頭に置かなければと思う。ユネスコの文化遺産の登録はいま一歩のところまできている。ご声援、ご参画を頂ければ」と語り「芭蕉祭の最後に俳句を詠むという変な倣いを作ってしまった。選者、特選句の皆さんの前でご披露するのははばかれるが、自分が掘った穴」と言いながら、「空澄めり 四界やすかれ 翁の忌」と詠んだ。
「しぐれ忌」
芭蕉の命日(旧暦10月12日)の頃は、天候不順で雨が多く「しぐれ忌」と言われる。旧暦の10月12日に近い新暦の11月12日、伊賀市柘植町の松尾家の菩提寺である萬壽寺では、「しぐれ忌」の式典が行われる。

一般の部とテーマの部の特選句を紹介。
【一般の部特選】
◉稲畑廣太郎選  せせらぎに音色重ねて河鹿笛 津市 紫雲女
沈みゆく太陽捉え曼珠沙華  岡山市 伴明子
◉井上弘美選
丹波太郎あすは次郎も連れてくる 国分寺市 湯口昌彦
春の夜の金泥に富士うかみたる 習志野市 鈴木礼子
◉小川軽舟選
水打つて午後の診療始まりぬ 江戸川区 坂本昭子
はらからと話し尽して黙涼し 堺市 濵田昭
◉小澤實選
花野上空T字尾翼の軍用機 杉並区 余村光世
草刈機自走す石を弾きつつ 板橋区 望月とし江
◉櫂未知子選
兄が跳び弟が跳びこどもの日 伊賀市 森永元希
山裾に戸毎のたつき秋灯 伊賀市 田端昭子
◉坂口緑志選
雁渡る城に芭蕉の羈旅の笠 名古屋市 駒木逸歩
一山は忍祖の砦鷹巢立つ 伊賀市 下村哲朗
◉西村和子選
新涼や座敷箒を買ひ替えて 西尾市 齋藤佳織
香水の一滴心律したる 神戸市 齊木富子
◉長谷川櫂選
雲の峰崩れて暗き太平洋 兵庫県 小林恕水
砂漠とふ地球の裸体夏の月 志木市 真尾公子
◉星野椿選
一隅に虚子之塔あり天の川 三木市 岡本やすし
翁生家世塵を寄せぬ白障子 伊賀市 森中幸枝
◉堀本裕樹選
蝌蚪の水借りて一日の鍬洗ふ 横浜市 沼宮内薫
道をしへ一本道を教へけり 新居浜市 大賀康男
◉正木ゆう子選
どの岩も名のある岬寒怒濤 登別市 袖山功
霧と霧交はる峠越えて伊賀 鈴鹿市 高尾のり子
◉三村純也選
鮑捕る担ひ手なしと海女嘆く 伊賀市 澤井重正
早乙女の結の揃ひの赤襷 枚方市 伊瀬知正子
◉宮坂静生選
熊かへす空砲ひとつ水芭蕉 品川区 本多遊子
銀河濃し奥能登統ぶる須須神社 横浜市 有手勉
◉宮田正和選
海の紺けふ深くして初茄子 志摩市 松村正之
荒行の終の蓬髪山笑ふ 川口市 滝本史代
【テーマの部(「和」)特選】
◉片山由美子選
雪国の雪の白さの手漉和紙 長野市 木原登
合性といふは酒にも木の芽和 多治見市 荻原正三