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極楽寺で松明づくり 第776回松明調進行事
関西に春を呼ぶ行事と言われている、奈良東大寺二月堂の「お水取り」修二会(しゅにえ)に使われる松明を作り、二月堂に送る一連の行事を「松明調進行事」と言う。その松明を作る作業を「松明調整」と呼び2月11日、名張市赤目町一ノ井の極楽寺でその行事が行われた。
この行事は道観長者と言われる伝説上の人物が、松明を東大寺に寄進し続けることを遺言して山を残し、それを守り続けている名張市の無形民俗文化財。今年で776回目となるこの行事を支えている地元住民による「伊賀一ノ井松明講」の人々を主力として、協力している市民団体「春を呼ぶ会」、名張高校サッカー部、名張青年会議所の人々など約90人が参加した。また東大寺からも2人の住職が参加した。
中川拓真住職(55)の安全祈願法要の後、皆で約1㌔離れた松明山に入った。目印の御幣が巻かれた高さ約30㍍のヒノキを前にして住職が読経し、吉野山金峯山寺優婆塞の亀本清芳師(76)によるホラ貝が森に響き渡った。チェーンソーで伐採し樹が音を立てて倒れた。係の人が年輪を数えると75年であった。これを長さ80㌢に切断して縦1/4に割り、手分けして担いで山を下り、極楽寺境内に丁寧に積み上げた。再び法要とホラ貝の後、全員で焼香してヒノキを供養。「ヒノキの命を貰うが多くの人々の安寧と、災厄除去の思いを乗せて東大寺に届けるため」と、行事の最初に中川住職が語っていたことを思い出した。
松明にするため全員協力して加工。樹皮を剥ぎ鉈で縦に寸断し、長さ36・3㌢、幅9㌢、底辺0・9㌢の楔形の板状に切り揃え、8枚ひとまとめを1把とし、7把の束を10束、8把の束を10束、合計20束作って本堂の縁に積み上げた。これが二月堂に送られることになる。二月堂ではこれを1年間保管し、来年の修二会の最後のクライマックスに二月堂内で執り行われる秘儀「韃靼の行法」で使われる。
無事作業が終わった松明講の森本芳文講長(73)は「子どもの頃は、親たちが当たり前のように松明づくりをしていたので、何処にでもある普通の行事と思っていた。大人になって大切な行事であることが分かり誇りに思っている。無事776回目を迎えることができたのは、皆さんの協力のおかげで大変有難い。そのうえ講の仲間で、近鉄の役職であったKさんに思い付きのように松明調進列車を提案したところ、近鉄さんとの話がトントン進んだ。これも有難い」と喜ばし気に話した。
一本の竹の棒の前後に松明の7把の束と8把の束を括り付けて天秤にすると約25㌔になる。本来はこれを担いで毎年3月12日、極楽寺を出発し笠間峠を越えて遠路を東大寺に運ぶが、近年は一部区間を担いで歩き大部分を車で運んでいた。最近は特にコロナ禍もあり、トラックで奈良に運んでいた。ところが、今年は近鉄電車が全面的に協力し、伝統的民俗行事と観光を結び松明調進行事列車として、赤目口駅から奈良駅まで乗り換えなしの臨時直通列車を走らせることとなった。
松明調進特別列車 参加者募集
極楽寺から近鉄赤目口駅まで松明を運び、列車に乗り込み奈良駅から二月堂迄松明を担ぐツアーとなる。八木駅も西大寺駅も乗り換えなしなので、列車は西大寺駅を通過後一旦、高の原駅まで行きスイッチバックして西大寺経由で奈良駅に到着する。赤目口駅発の最後尾が奈良駅到着時は最前列となる。鉄道マニアにとっても興味深いルート。
運行は3月12日で先着80人、お申し込み先は、パソコン又はスマートフォンから「おすすめツアー 近畿日本鉄道」で検索、またはチラシのQRコードで。お問い合わせ先は、近鉄旅の予約センター(06・ 6775・3636)まで。
松明調進法要
また12日に先立ち、二月堂に送る松明を供え道観長者に報告と安全祈願を行う、松明調進法要が10日午後1時、道観塚で行われる。
中川住職が講演会
お水取り臨時列車運行を記念して、伊賀一ノ井松明講主催で「もっと知りたい松明講とお水取り」の講演会が、3月2日午後2時から赤目市民センターで開かれる。入場は無料。テーマは「たいまつ調進行事の今昔」。講師は松明講の特別顧問で極楽寺の中川拓真住職。776年続いてきた無形民俗文化財の今と昔、祈りの場であり、奈良への起点である極楽寺の、貴重な話を聞くことと知ることができる。