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いが再発見 No207 金石文研が大屋戸を調査

日本の歴史に「黒田の悪党」の名前で登場。「悪党」の名を世に広めた中世の豪族、大江氏の本拠地として知られる名張市大屋戸地区をこのほど、活動を再開した金石文研究会のメンバーと歩いた。大江氏の氏神、杉谷神社に手を合わせた後、本殿の裏山にある古墳を見学。この墓は源氏ゆかりの墓だとの説もある。神社からほど近い民家の井戸の石枠に石工ならぬ石積職人の名前を発見、これは珍しいと驚く。参道の鳥居横にある道標は1876年(明治9)につくられた。その2年後、世界的女性旅行家、イザベラ・バード(1831~1904)が伊勢神宮に行く途中、この地を通った記録があると知らされ、これにも驚いた。
かつて東大寺の荘園「黒田の荘」の下級役人から成り上がり、黒田の悪党の名で世に知られた名張郡の豪族、大江氏が勢力をふるっていたのが、ここ大屋戸地区。現在の杉谷神社周辺がその中心地といわれる。この日、会員は鳥居前に集合。すると、金石文を40年にわたって調査している今西正己さん(68)が、横にある四角い手水鉢(ちょうずばち)を指して「ここに貞享元年(1684年)の銘があるでしょう。その足元の石は元禄11年(1698年)と彫られています」と教えてくれる。貞享といえば俳聖芭蕉が活躍していたころだし、足元の石は石橋の片割れで、移設されたものらしい。ふだん何気なく通り過ぎているが、改めて指摘されると確かに銘が入っている。昔の人もけっこう石に年号を刻んでいたのだ。
杉谷神社は鎌倉時代に遡る歴史ある神社で菅原道真も祀っている。会員で民俗学にくわしい山口浩司さん(53)によれば、大江氏も菅原氏も一族なのだという。現在では悪党の大江氏よりも学問の神さまに人気があるのか、合格祈願に訪れる人が多いらしい。
山神さま
境内の東側の森を少し入ると大きな木の根元に「山神(やまのかみ)」と彫った自然石が6つ並んでいる。文字通り山を守り、山をつかさどる神さま。民間信仰では秋の収穫期には山におり、春になると下って田の神になるという。山口さんが「鍵(かぎ)引き神事」と呼ばれる行事を説明してくれる。「正月7日の早朝、山の神は女性なので、男たちだけが山に入り、ウツギの枝で作った鍵をしめ縄などに引っ掛けて豊作を祈り、福を呼び込む行事。お供え物と一緒に持参した福袋の中に、小石や小判に見立てた葉っぱを入れるようです」
名張各地で行われている行事らしく、ほかの会員から「ウチは別のものを入れるよ」と声が掛かる。ふだんこんな場所にきたことがないので、今でも続いている行事に興味がわく。
本殿の裏山へ回ると、そこに大きな穴。古墳である。その上にもう1つある。のぞいて見る。深さ1・5㍍、奥行き3㍍ばかり。同会の会長・松鹿昭二さん(79)の解説が入る。「これは5世紀末から6世紀にできた横穴式古墳。片袖石室と呼ばれるものです」
それよりも、松鹿さんの別の説明が面白かった。「源氏ゆかりの墓だという説もあります。前回行った薦生の源有綱は、実は義経に墓を守れと命令されて名張にやってきたという言い伝えがあります。その由来を書いた文書が存在していますから……

続きは令和4年5月28日号の伊和新聞に掲載しています。
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