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命の大切さ訴える 交通事故被害者遺族 名張高で講演

6月22日、三重県立名張高校(東町)で開かれた「命の大切さを学ぶ教室」(三重県警、みえ犯罪被害者総合支援センター共催)で、交通事故で夫を亡くした四日市市在住の安田厚子さん(54・県交通遺児を励ます会会長)は、1年生約200人を前に、事故後の壮絶な体験を、切々と講演した。
「悲しみのピークはお葬式ではないのが分かった。テレビや新聞でしか知らなかった交通死亡事故。引き裂かれた悲しみは強烈だった。普通に考えると、これから母子家庭となって子育てをしていくことが大変だと思われがちだが、まず、夫がいなくなった現実を認めることができなかった。悲しみは薄れるどころか、日に日に打ちのめされるように深まった。それでも時間がたって、子供達には私しかいない、と母親である自分を考えると、強くならざるを得なかった気がする。」
交通事故の被害者には、加害者と向き合う葛藤がある。
「裁判の後、加害者は一度も謝罪に現れないが、加害者を憎み続けるより、夫の命に報おうと思うようになった。2歳の娘は歌を覚えるより先にお経を覚えたが、記憶にない父親への憧れを胸に育ち、当時小2の父親っ子だった息子は現実を胸の奥深くしまい込み、耐え忍び育った。夫の両親には本当に世話になった。夫の分までもと思って支えてくれているようで、今も甘えっぱなしだ。息子が大学生になった時の事、はねられた猫が震えながら道に横たわっているのが車から見えた。どうせ助からないと思って通り過ぎようとした自分に、﹃戻れ!﹄と息子が怒りの声を上げた。病院に連れて行き手術と入院で猫は一命をとりとめた。その後飼い主が現れ、涙を流して喜んでいるのを見て、本当に良かったと思った。『あんなアスファルトの上で死なせたくなかった』息子が言った言葉だ。」
多くの人のおかげで生きることができたと感謝の言葉が続いた。
「事故の後、自分にはもう幸せは来ないと思っていたが、人生は境遇ではなく、誰と出会うかだと思うようになった。多くの出会いに助けられた。子供たちも女手一つで育ったわけではない。周りの人に育ててもらった。交通関連の支援団体には特に世話になった。『交通遺児を励ます会』から、事故の数か月後招待されたもちつき大会の楽しい時間には、本当に感謝している。今は事故や犯罪被害者支援の側に立ち、情報発信に努めている。
高校生の皆さんは毎日の登下校時の徒歩や自転車に気を付けて。近い将来運転免許証を取ると思うが、今日の話を思い出して欲しい。事故は加害者、被害者のどちらにでも起こり得る。自分の命を大切にするように周りの人の命も大切に、一度きりの人生だから。」と締めくくった。
講演を聞いた男子生徒は「自転車通学には気を付けたい。猫を助けた話は印象深かった。小さいけれど大切な命だと思った」と話していた。

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