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「先生への感謝」と「自分のあたまの中」を物語

右脳委縮による左半身麻痺と指定難病を持つ、名張市在住の大久保朱莉(あかり・12)さんが、小学校の3年3か月を一緒に過ごし支援し、成長させてくれた先生への感謝の思いを込めて「石橋先生とわたしの5つの思い出」と、名張市立蔵持小学校卒業を機に仲間に向けて「あたまの中のとしょかん」の2冊の絵本にまとめた。

「石橋先生とわたしの5つの思い出」
朱莉さんが小学校3年の3学期に支援学級の担任に石橋祐香先生(33)が着任し、運命的な出会いとなった。それからのことが「石橋先生とわたしの5つの思い出」の絵本になった。はじめは右脳委縮による感覚障害で、周囲のことが理解できないでパニックになり大泣きになることがしばしばで、先生は「こんなに泣くの!?」と思ったらしい。しかし、その後は状況を黒板に書いて整理し示してくれた。「石橋先生は、私が困っているときに、私の頭の中を整理してくれます」時には、こだわりが強くてその場に合わない行動をすると「私は、笑ってはいけないところで、笑ってしまいます。そんな時、石橋先生は怒ってくれます。でも、石橋先生は私のために怒ってくれるので、ありがたいです」先生は日常の体の管理も真剣に対応「私の体の事もみてくれています。私には尿崩症(※)があります。その薬や、水分の事をみてくれています。あと、私の身体がどのくらいの疲れか、聞いてくれます。この時の石橋先生は真剣な顔をしています」先生は元気の度合いを、10段階で話すように朱莉さんに指示した。先生によると4以下だとかなり危険信号で、この10段階評価法は役に立ったという。「石橋先生は時々、スンッとした顔をしています」。「それは私が中学生になっても1人で出来るように、(中略)あまり手伝いをしないでいてくれるからです」そして「私は石橋先生が大好きです。だから、笑っても怒られても私の中では全部良い思い出です。石橋先生の顔を思い浮かべた時、いつも石橋先生は笑っています」「私はもう一度6年生をしたいと思っています。私は石橋先生と一緒に中学校に行きたいです。石橋先生と一緒にいたいから」と葛藤を込めながら中学校入学式の絵となる。これは表紙と同じ絵で、珠莉さんと先生が並んでいるが、先生の上に「私の理想」と書き加えられている。明るく表現されているだけ思いが伝わってくる。もうじき中学生「石橋先生がいなかったら寂しいけど、これから石橋先生は私をいつも見てくれていると思っています。そう思えるから頑張ろうと思います」遠くから双眼鏡で朱莉さんを眺めている石橋先生が大きな吹き出しの中に描かれている。
石橋先生は、マンツーマンで、朱莉さんに寄り添って授業を続けてきた。本の最後に母親の浩美さんは「医療現場でなく教育の現場で、朱莉の命を守りつつ、いつか社会へ出るその日に向けての基盤を作る石橋先生の毎日は大変なご苦労であったと思います。朱莉に沢山の愛情を注ぎ、育ててくださり感謝以上の言葉が出てきません」と記している。

「あたまの中のとしょかん」
もう一つの絵本「あたまの中のとしょかん」は、右脳委縮障害でパニックになる朱莉さんの頭の中を、朱莉さん自ら図書館に例えて文章で表現したもので、妹の実乃里さん(11)が構図を考え、母親の浩美さん(50)がイラストを描いた。
「わたしの あたまの 中は としょかんです。たくさんの 本が あります」勉強したり、いろんなことをすると図書館の本は増えていくが、さかさまに入れてしまったり、きれいに並べられなかったり、何処にあるのか分からなかったりする。「時々 本が ばさっーと 落ちてきてしまって困ることもあります」一生懸命自分で整理しようとするが、上手に本棚に直せないときがある。そんな時は皆が一緒に拾ってくれたり並べてくれたりする。「私は みんなが 手伝って くれてうれしいし 私も みんなを 助けたい と 思いました」これからも自分の本を増やしたいし、誰かが困っていたら手伝ってあげたい。「そして 私の あたまの 中の としょかんを みんなにも 見せたいし みんなの あたまの 中の としょかんを 見て みたい です」
本の最後に、6年生の皆さんへと語りかける浩美さんの手紙が書かれている。朱莉さんの病気の経緯や、闘病や検査の苦しさ。学校に行けなくなったときに、みんなが電話をくれたり、手紙を書いてくれたり、交換日記を始めてくれたりしたこと。お母さんたちにも助けてもらったこと。そのお陰で学校に戻ることができたこと。みんなに励まされて曽爾高原に登ることができ、修学旅行にも行けたこと。学校で、日常的に助けてくれたことをたくさん拾い出し、その一つ一つにいっぱいの「ありがとう」を書いている。
小学生最後の日の3月31日、親子3人で蔵持小学校を訪れ、石橋先生に2冊の絵本を手渡した。朱莉さんは「石橋先生がいなくても、先生に教えてもらったことを思い出して頑張る」と言い、石橋先生は「このような本になってびっくりした。中学でも自分のペースで良いので、頑張ってください」と思いを語り「朱莉さんのことは、ずーっと永く思い出として残るだろう」と涙ぐんでいた。
なお、同書籍はアマゾンのkindleでのみで購入可能。
※尿崩症とは、排尿のバランスコントロールができなくて大量の水を飲むなど、命にも係る指定難病。