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俳聖芭蕉翁をしのぶ「しぐれ忌」

俳人・松尾芭蕉(1644~94年)の命日である11月12日、翁の遺徳を偲ぶ「しぐれ忌」が松尾家の菩提寺・萬壽寺(柘植町)で営まれた。市や松尾芭蕉顕彰会、地元住民ら約90人が出席し芭蕉の功績に思いを寄せた。
「しぐれ忌」は俳聖松尾芭蕉を顕彰するため1893年の200回忌の東柘植村主催から、旧伊賀町、そして現在の伊賀市へと市町村合併の都度、その当時の行政が主催し、萬壽寺で開催されてきた。伊賀市と芭蕉翁顕彰会の共同開催ではあるが、地元山出区の「柘植の里芭蕉翁を顕彰する会」を中心とした「しぐれ忌協賛事業実行委員会」の全面的協力のもと、毎年開催されている。
式は本堂で行われ、芭蕉翁顕彰会の岡島久司会長が「芭蕉翁は研鑽の場として生涯浪泊の旅を続け、奥の細道へと出発し、不易流行の俳諧精神を確立された」と称えて開式の言葉とした。落合泰寛住職の法要の後、境内の墓碑前にて岡本栄伊賀市長、岡島会長らが献花し、国会、県、市議会の議員、市民が続いて焼香した。
芭蕉と俳句とSDGs
その後、全員が本堂に戻り、「柘植の里芭蕉翁を顕彰する会」顧問の中嶋國博さんによる講演があった。
中嶋さんは「芭蕉は何故こんなに慕われているのか」と提起し、あらゆる人を貴賤で差別しない。あらゆることに対する繊細な思いやり、謙虚さ寛容さ等、芭蕉を称賛する先人の言葉を引き合いに出した。次に「それはどこから来ているのか、心根にあるものは?と問いかけて、荘子の、全てのものは大宇宙の大調和の上に成り立っている「造化」の思想が芭蕉の心根にあるとした。「笈の小文」で、西行、宗祇、雪舟、利休を引き合いに出し、「『造化』に従いて四時を友とす」とあるのは四季の自然を友とすることで、四人の先達に並ぶ決意表明をしたもの、と中嶋さんは言う。
更に、地球を将来にわたって持続させるために「持続可能な開発目標」を定めたSDGsに言及した。これは芭蕉のいう不易流行と連なる。「不易を知らざれば基たちがたく、流行知らざれば風新たならず」不易は持続(地球)、流行は開発につながる。
SDGsの個別目標である、貧困、飢餓、教育、ジェンダー、平和、等々に対応する芭蕉の句を引き出した。「貧困」に対応する「霜を着て風を敷寝の捨て子かな」、「多様性」に対応する「草いろいろおのおの花の手柄かな」等々。
俳句の効用とSDGsとして、季節感を意識するため自然と寄り添い、自然との共生につながると述べて、恩田侑布子氏の「これからは感情をふくよかにする地に着いた暮らしが逆に見直されるのではなかろうか。地域の差異と多様性を輝かせる新たな社会に向かって、俳句はささやかながら一役買えるかもしれない」を引用した。
最後に「俳句のユネスコ無形文化遺産登録申請」より、「俳句を楽しむ習慣は、現代におけるすべての人の生活にゆとりと人間らしさを呼び起こすものと考えます」を紹介して講演は終わった。
終わりに「しぐれ忌協賛事業実行委員会」の藤井広司委員長が「来年は芭蕉生誕380年の節目にあたるので、それに向かって準備を進めていく」と話した。本堂の前には投句掲示板があり、この日のために投句した作品が短冊に清書して掲示してあり、それを眺めながら地元の人たちが、互いの句を楽しそうに語り合っていた。