「おしん」の心をさがして
日本と祖国の幸せ求め ラヒル・ケルンさん
2005年、インド洋に浮かぶ北海道より少し小さい島国スリランカから、単身日本にやってきた青年がいる。日本に憧れ、日本で起業し、日本と祖国の架け橋になることを夢見るスリランカ人、彼の名は、ラヒル・ケルンさん(37)。
内戦の続く中、3歳で父親を戦禍で失い、母親に育てられている時見たのはNHK連続テレビドラマ「おしん」。「あれだけの厳しい境遇の中で生きていく日本人は凄い。世界第2位の経済大国の日本ってどんな国だろう。我が国と何が違うのか」。「政治家や軍人にはならないで」の母の言葉を胸に、「日本に留学し、ビジネスの世界」で生きようと心に決める。
夢の日本に
大学を中退し、20歳で憧れの日本にやってきたケルンさん。日本語を少しは勉強していたが、会話にならない。日本語学校に通いながら、アルバイトをして生活費をと思ったが、なかなか仕事が見つからない。当時はまだまだ外国人が珍しい時代であり、コンビニバイトも断られ続ける。思い描いていた日本と少し違う所もあった。しかし、そんな彼を支え続けたのは、「どんな苦労にも耐え抜くおしんの姿」であった。
「おかげ」
そんな彼の何事にもへこたれない姿勢をサポートする人が現れた。日本語学校で2年、IT専門学校で2年勉強をし、サラリーマンとして会社勤めを始めたケルンさん。勤めた会社の社長は、彼の一生懸命働き、何事にも前向きに取り組む姿勢を高く評価し、彼をいろんな場所に連れて行き、経営者などとの出会いを作ってくれた。2011年、その会社から独立し、IT関連の起業をしようとした時も、社長は喜んで送り出してくれたという。その間、彼の話す日本語も随分上手になっていた。その彼が話す日本語で絶えず出てくる言葉は「おかげ」。社長の「おかげ」、出会った皆さんの「おかげ」で、今日の自分があると言う。
分の思う通りにはなかなかいかない世の中、失敗の連続。知らない土地で起業をするにはあまりにもリスクが多い。でも、彼には夢がある。「日本で作れば高くつく製品もスリランカでは安く作れる。スリランカで製品を作ると雇用が生まれる。コストの安い製品が日本に輸入されれば日本にとってもメリットがある。」日本とスリランカがWINWINの関係になり「日本もスリランカも幸せ」になることができる。
ソナス求めて
2018年、紆余曲折を経て株式会社ソナスを設立。ソフトウェア、WEB、アプリの開発販売を始める。「ソナス」とは、古代アイルランドのゲール語で、「幸せ、幸福、幸運」を意味し、それを社名としたのは、世の中を少しでも「幸せ」な場所にするために、国内外と繋がり、夢を叶え、ともに成功することを目指す会社でありたいとの彼の熱い思いからつけた社名。スリランカで事務所を設け、祖国の人に仕事を任せる。もちろん彼らを日本に呼び、研修を受けさせる。日本の事がよく分かっているメンバーを育てる。一方、日本人が海外に行くこともサポートする。会社のある岐阜の陶芸作品をスリランカの高級ホテルなどで販売するルートを作ったり、障害のある人がe‐スポーツを通じ海外に行けるようスリランカにチームを作りコラボする取り組みなども行っている。
日本にやって来て17年、その間経済大国を支えてきている日本の企業、特に大企業の中には外国の企業に買収されるなど大きく変化してきている。彼は言う。「日本人はもっと外国に出ていくべき。そのためには、外国のことを知ること。歴史や文化、食事などを知ることにより、興味がわき、外国に行ってみようと思うようになる。」2020年、彼は海外の料理を提供する飲食店を紹介するグルメポータルサイト「YUMMY!WORLD」(ヤミーワールド)も立ち上げた。
今、事業は順調に成長を続けている。そんな経営者としての彼は今までお世話になった多くの人への恩を今も忘れていない。そして、「祖国スリランカが日本のように平和で豊かな国になり、世界中どこにでも行ける国になること」を願っている。
今年の干支、壬寅(みずのえとら)は、「新しく立ち上がること」や「生まれたものが成長すること」を表し、縁起の良い年と言われている。2022年、彼のチャレンジ精神がアフターコロナ時代に発揮され、ソナスな世界になるよう新しく立ち上がったり、成長したりすることを願い、「がんばれケルン! 負けるなケルン!」とおしんの声援を送る。
取材を終えるにあたり、彼の丁寧で礼儀正しい応対に、夢の実現に向かう意気込みに接し、誰しもが彼を応援したくなる気持ちがよく理解できた。
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