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昭和30年② 特別調査で赤字の全容が判明

 名張市議会に昭和30年3月12日設置された特別行政調査委員会はほぼ1か月にわたって調査を進めた。休会に入っていた市議会が再開されたのは4月23日のことだった。議員には詳細な調査報告書が配布され、調査委員長を務めた吉田茂平は調査概要を報告して「赤字総額は4636万余円となっている。30年度予算では切り詰めて赤字を500万円減らせる見当となっているが、赤字解消には7、8年を要するだろう」との見込みを述べた。市役所を建築する費用も必要だった。吉田は「市庁舎建設の起債3000万円も新たに増えることもあり、執行者はよほどの覚悟でかからぬと、赤字解消どころか〝名張市よどこへ行く〟の暗澹たる前途しか考えられない」と執行者つまりは市長である北田藤太郎の覚悟を求めた。
合併で支出が膨らむ
 北田藤太郎にも赤字の全容は把握できていなかった。名張市の財政状況を《町の商店への支払いにも不自由する、そこまでいってしまった。市の金庫はからっぽで、請求書だけが山のように積まれていた。いったい幾らぐらい赤字があるのか。私自身にも正確にはわからなかった》と打ち明けたあと、市議会の特別調査に触れて回顧録『ある人間史』にこう記した。計算の合わない記述があるが、原文のままとする。
《この調査の報告書は印刷して市民にも配られた。実のところ、この調査によって私もはじめて赤字の実態がはっきりした。
赤字の主な理由となった支出は三村合併に伴うものと神戸、古山の合併工作に要した経費であった。
 合併に伴うものとしては名張(繰越事業)五百万円、(農地係争関係)百万円、箕曲(小学校講堂)三百三十万円、(道路)二十万円、国津(講堂その他)二百三十二万円、(教育費)五十万円、合計千六百五十二万円である。古山、神戸合併工作に二十九年から三十年にかけて使った経費は四百六十五万四千円であった。以上を合わせて二千百十六万円である。このほかにも消費的経費の増加や事業費の増加などで調査がはじき出した赤字総額は四千六百三十六万七百二十一円であった》
 北田によれば昭和30年度の一般会計当初予算は1億5588万円だった。4636万円はその3分の1に相当する。北田は《市政研究会の方面からは引責退陣を要求する声も出た。私もいちおうそれを考えたが、赤字を作った責任よりも、それを解消する責任の方が大きいと思った。さいわい市議会が協力的で、その協力を柱に赤字解消に取り組むことにした》と振り返る。
 4月25日付伊和新聞は「予算執行には/冗費を極力さけよ」との見出しを掲げ、市が職員に節約を要請したと報じているが、いうまでもなく焼け石に水だった。財政破綻を回避することはできず、名張市は翌31年、赤字再建団体への転落を余儀なくされてしまう。
納涼花火大会盛大に風物詩
 市議会の混乱が収束して新年度予算が成立し、夏が訪れると7月24日の納涼花火大会が市民を楽しませる。伊和新聞社主催の協賛行事、造り物競技大会は5年目を迎えた。
 造り物は22日締切で製作され、翌23日午前に市長、議長や商工会長ら10人の審査員が審査した。25日付伊和新聞は「栄えの優勝は本町/いずれ劣らぬ傑作・得点せり合う大競演」としてこう伝える。
 《回を重ねること今年で五回、年と共に人気上昇、製作技術も一だんと磨きがかかって、今では花火大会になくてはならぬアクセサリー。今年は松崎町、本町、榊町、上本町、本町、鍛冶町、新町、東町の八町が参加、うち松崎町、本町は二つずつ出品という張切り方で、作品は十。個人作品はなく、いずれも町内の衆智を集めた共同作品。製作締切の二十二日には奔騰する水銀柱もものかは、どことも汗だくで〝彫心鏤骨〟の精進ぶり、その甲斐あって、出来上った作品はいずれ劣らぬ傑作ぞろい》
 町単位の参加者が歴史や世相などを踏まえたテーマを決め、素材を工夫して仕上げた。
 一等に輝いた本町の「かっぱ天国」は清水崑の漫画をヒントに、男の河童は黒昆布、女の河童は白昆布で胴体をつくり、甲羅は寿司のり。子供の河童も四匹登場し、《町内の壮年層が二日掛りで作成。名張は水都だし花火大会の騒ぎもあって陸へ這いあがったとの連想をさせるところに含みがある》と紙面で紹介された。《一番苦心したのは顔をどう表現するかの点。クチバシにも頭をつかった。狙いは産児制限という時局的なものを象徴しているのと、時季的なものを捉えたところにもある》と製作サイドのコメントも。
 二等は中町の「証城寺の狸ばやし」。荒物だけでつくることにして、寺の本殿は炬燵、屋根はシュロ縄、隣に建つ五重の塔もシュロ縄、宙にぽっかりと浮かんだ満月は紐で大きな円を描いた。

令和5年8月5日付伊和新聞掲載

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