昭和31年(1) 発足3年で赤字再建団体転落

名張市公式サイトによれば、今年9月1日時点の市の人口は7万5428人。昨年同期は7万6381人だったから、1年間で953人の減少となった。年次別(各年10月1日時点)で見ると平成12年の8万5362人がピークで、翌13年、つまり2001年から減少に転じている。名張市の人口は21世紀の開幕とともに減少を始めたことになる。人口は都市の盛衰を示す指標のひとつだが、町村合併で発足したあとも市人口は伸び悩んだ。昭和29年10月1日に3万1131人、39年同日には3万1003人。10年で128人の減となっている。市制実施3年目の31年には前年より100人を超える減少を記錄したが、それを案じる声は聞かれなかったことだろう。市民にとって最大の懸念は深刻な赤字財政にほかならなかった。
約40%が赤字団体
昭和31年は赤字再建団体に転落した年として名張市の歴史に刻まれている。赤字財政を健全化するためこの年5月、名張市は地方財政再建促進特別措置法の適用を受ける道を選んだのだった。
敗戦からの復興が全国で進んでいた。そのための財政需要の急増と財源の不足、さらには朝鮮特需後の不況も原因となって、昭和29年度には全国の地方公共団体の約40%にあたる2281団体が赤字団体だったとされる。そんな地方財政の建て直しを目的として30年12月、地方財政再建促進特別措置法が施行された。
財政再建団体となった地方公共団体には国が大きく介入し、職員数の削減や給与水準の適正化、新規事業の延期といった支出の節減と、地方税の税率アップなどによる収入の増加を図る厳しい財政再建措置を求めた。
自主再建か措置法適用か
赤字財政にあえぐ名張市の前にも、自主再建か地方財政再建促進特別措置法の適用を受けての再建か、その選択が喫緊の課題として迫っていた。
3月12日に開会した名張市議会の定例会。14日の一般質問で措置法について市長としての決意を問われた北田藤太郎は「措置法の内容については研究しているが、いまいずれの道をとるかの言明はさけたい」と言葉を濁したが、内心では自主再建の道を選びたい意向だった。
翌15日には措置法研究の一環として三重県地方課から職員を招いて説明を受ける機会が設けられたが、名張市の赤字がいかに「重態」であるかを深く認識させられる結果となった。3月19日付伊和新聞は「地財再建法の問題点/特に名張市の場合に就て」と題した社説でこう伝えている。
《名張市北田市長は予算議会における施政方針演説で〝自主再建〟の線を強く打出したが、しかしなお地財再建措置法には一縷の未練を残し、赤字解消のため再建措置法の適用を受けるか否かについては議会と共に十分研究して善処したいと述べている。そしてこの研究の一端として、十五日県地方課から海野課長、河合財務係長を招いて議員、課室長と共に措置法の説明を受けた。
この席上、河合係長が名張市の赤字について述べた次の言葉は、市民も共に特に注目すべきだろう。
「全国ほとんどの自治体が赤字に悩んでいる。だから赤字は世間並だといって安心しているのは全く危険である。赤字は、金額の多少よりも、その自治体の財政規模にてらして、どのくらい圧迫の比重が占めるかということが問題である。この観点からみると、県が有する八億円の赤字は、百数十億という財政規模からみれば大した問題ではないが、名張市の六千数百万円という赤字は、わずか一億数千万円という財政規模にてらすとまことに由々しい問題だ。県下では津市に次いで名張市と松阪市が重態である」》
北田も結局は措置法適用に踏み切るしかなかった。4月11日から15日まで上京して関係省庁などを回り、決意を固めた北田は16日、措置法の適用を受けるという方針を発表。19日付伊和新聞はそれを「北田市長 措置法適用を決意」との見出しで詳報した。
5月。事態は急速に動き、18日の市議会本会議で措置法の適用を受けることが正式に決められた。21日付紙面に掲載された「議決までの市議会の足どり」を引いておこう。
《▽5月4日=全員協議会、市長から初めて〝適用をうける決意した〟旨の意思表示があったので、研究のため非公式ながら財政再建特別委員会を設け、上村(文)総務委員長を委員長に選任。
▽9日=第一回特別委員会を開く。理事者側から措置法の適用を受けた場合の再建と自主再建の両方式について比較資料の提示あり、その説明を聞く。
▽11日、14日=全員を五班に分け適用申出都市(津、松阪、愛知県西尾、大阪府寝屋川、兵庫県川西、伊丹)を視察。
▽15日=第二回特別委員会。視察報告ののち理事者側と質疑応答。
▽18日=本会議で公式に特別委員会設置、原案を同委員会に付託。引続き第一回委員会を開き付託議案を可決。本会議で適用を議決》
5月21日付伊和新聞は《六千数百万円の赤字をかかえ地財再建特別措置法の適用を受ける受けないを決定する名張市第十四回臨時議会は十八日午前十時五十分から市議事堂で開かれた》と報じる。
写真=前年竣工した市役所議場
令和5年10月7日付伊和新聞掲載
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