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昭和30年① 希望は消えて財政破綻に直面

 新年は混迷のなかに明けた。名張市の昭和30年は正月気分にほど遠い現実からスタートした。前年末に発生した市役所の火災のみならず、町村合併の条件となった道路整備などの事業が財政に重くのしかかっていた。1月31日付伊和新聞は「名張よどこへ行く」と大見出しを掲げ、《三万住民の大きな希望と期待によって、昨年四月名張市が誕生してから早くも十カ月が経ち、年が改まってここに二歳を迎えたことになるが、最近は果して市のやり方は市民の期待に添うているのか!とみると、期待に向って一歩を前進させているどころか逆に市の台所に大きなヒビが入ってダイヤが狂い出し経理面もメチャ〳〵で明るい希望などどこかへすっ飛んでしまって大きな暗影をすら投げるにいたり》と市民の疑問と不安を伝えている。
市民が市政の懇談会
 前年8月に実施された市議会議員選挙の投票率が90㌫を超えていたという事実が示すとおり、市政に対する市民の関心は現在よりはるかに高かった。財政危機に揺れる市の将来を憂慮する市民も少なからず存在しており、そうした市民が集まって意見を交換する場が誕生したのは当然の流れだったといえる。
 主導したのは伊和新聞社初代社長の岡山実だった。岡山は2月5日、上八町の伊和新聞社に市民有志を招集、名張市政研究会の結成懇談会を催した。市長の北田藤太郎と要職にある市議会議員も招かれ、参加者数は三十人を超えた。
 2月10日付伊和新聞は「緊迫財政を衝く/名張市政研究会の懇談内容」として座談会記事を掲載しているが、それによれば冒頭、進行役の岡山はこんなふうに切り出した。
 「昨年4月に新市が誕生して以来今日まで、理事者、市議会では人口5万人を目標として神戸村、古山村にも合併を呼びかけ、いろいろ苦心している最中に年末、市庁舎の火災があって庁舎の新築問題がもちあがりました。名張小学校の建築、合併に関連した道路改修などで市の財政面は相当急迫に追いやられつつあります。本日は市長、議長、あるいは市会常任委員長の意見も聞き、真剣に検討していただければと思います」
いくら懇談しても結論に至るわけではなかったが、熱のこもった話し合いがつづいた。
 岡山が財政負担のひとつにあげた名張小学校の建築は合併以前に決定していた事業で、鉄筋3階建て、教室数18の校舎新築を2630万円で清水建設が落札し、2月15日に起工式を挙行、9月末の完成を目指して工事が始まった。
赤字財政の特別調査決定
 名張市政研究会の活動はつづいた。3月2日には幹部数人が北田と面談、「市財政立て直しのためにはまず現況を早急に市民に公表すること」などの申し入れを行い、その旨を議長の上村進一郎にも伝えて議会として善処するよう要請した。
 3月5日、伊和新聞は通常より小さいタブロイドサイズの「名張市政批判特別号」を発行、「市政をマヒさせる赤字五千万円/名張市財政破局に直面す/乱脈極まる(?)市政の執行」と財政の危機的状況を訴えた。「主張」と題した社説では「北田市政の破局/一大転換を要す」との見出しを立て、不調に終わった神戸村との合併工作でいたずらに工作費用を費消した北田藤太郎を厳しく批判した。
 そして1週間後の12日、新年度予算を審議する3月定例会が始まり、名張市政研究会の申し入れも奏功したのか、地方自治法にもとづいて市議会が赤字財政の特別行政調査委員会を設置することが決定した。17日付伊和新聞は「行政調査本決まり/緊張した空気をはらんだ名張市会」として開会初日の審議をこう伝えた。
 《永岡議員 調査の範囲、内容をきめておく必要はないのか。市の財政事情は政治問題化し、対外信用も失墜したとみられるが、この結果に対し理事者としては何らかのお考えがあって良いのではないか。三村合併の場合も歳入面では万全を期するとのことで二十九年度予算を議決したが、その後二千万円も赤字がふえている。この市長の責任やまた派生する問題につき市長のハッキリした見解をききたい。
寺島議員 いまの状態では三十年度の予算審議に入れないが、暫定予算を組む用意が必要だろう。
市長 問題は大きく、派生的なことも起るかもしれない。三十年度の予算は私としては提出したい。
西山(良)議員 市長の考え方如何との話もあったが、調査は調査でやればよい。
(傍聴席から市長の責任をなじるのもよいが、その前に市議は総辞職せよの声)
北橋議員 市長もやめ、議員総辞職も市民の為とあらばよいが、逆効果になるのではないか。
深山議員 市長がやめる必要はない。赤字は全国的だ》
 市議会がそうした混乱を呈していたいっぽう、4月3日に告示を迎える三重県議会議員選挙はすでに前哨戦に突入し、3人の候補者が激しい戦いをくりひろげていた。

令和5年7月29日付伊和新聞掲載

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